ESSAY,1『オペラ座・荘厳のパリ』
パリ9区、オペラ座、陽光の6月末… とにかく眩しいんです。
この年のパリはパリジャンもびっくりの暑さとなり、
お日様はもうさんさん燦燦で気温は32度。
でも、湿度が低いせいでしょうか。
太陽の光を浴びることが"楽しい"という感覚です。
この日は珍しく、オペラ座前の広場(オペラ広場)に観光客がまばらで、
私は、この白い劇場と一緒にパリの夏を実感していました。
真っ白。そう、オペラ座は、もともと大理石のホワイトを
メインカラーとする純白の国立歌劇場だったのです。
創建から150年ほどを経て、すっかりクラシカルな風合いとなって
いましたが、新ミレニア
ムを機に完成当時の姿へと修復されました。
今回で幾度目かのフランスですが、以前とは印象が異なり新鮮です。
私が訪れたときには外観の修復工事も済み、本来の硬質なホワイト(壁)、
瑠璃色(屋根)、ゴールド(屋根上のギリシャ神像)が、
強い日差しに輝きをかえしていました。
オペラ座の正面には、大きな人物彫刻とアーチが並んでいます。
その間を抜けて中へ入ると、まず玄関ホール。
それから少し進んで、普通の劇場が1個入ってしまうほど
大きなホワイエ(社交ホール・観劇の前後と休憩時間等に利用する)
に出るのですが…
ここはまさに、オペラ座が"世界一美しい劇場"と呼ばれる由縁を、
いきなり見せる場所でもあります。
まず、その荘厳なありさまに心を奪われます。6層にわたる吹き抜け、
キャンドルとガス灯を模した照明がそこかしこに散りばめられ、
淡い光が、大理石やしま縞めのう瑪瑙の柱に、アーチに、
そしてフロアに柔らかく広がり、
細密な彫刻と天井画たちを浮かび上がらせます。
ひときわ目を引く中央の大階段は、ばら色の手すりに縁取られ、
さらに奥の劇場へと続いてゆきます。
その姿は、訪れた人の心を日常の衣装から解き放ち、
優雅と幻想の世界へいざな誘います。
初めて足を踏み入れたときには、はっと息をのみ、
ざわめく観光客の存在も、しばらくは忘れていました。
そして、フランス上流社会の美意識に、心の中で拍手を贈りました。
オペラ座が建てられた19世紀中葉には、貴族風の華麗な文化が
流行していたそうです。
きっとパリの貴紳・貴婦人達がオペラ座に集い、上品な挨拶を交わし、
ときには思いを寄せ合い、また旧交を温め合ったりしたのでしょうか。
ディレッタント(芸術好き)な人達は、オペラや音楽談義を
大いに楽しんだのかもしれません。
そんな想像をしていると、待ち人を見つけた社交界の華が、
バラの様なドレスの裾を押さえて、大階段を降りてきそうです。
勿論ですが、彼女とすれちがう想像の中の私も、
エレガントなドレスでバッチリ正装しています(笑)。
さて、ホワイエは、淡い光が様々な石のニュアンスを包む、
静かなオフホワイトの空間でした。
これが、大階段を上って劇場内部に入ると、
様相はドラマティックに変わります。
オペラ座、世界最大規模を誇る歌劇場の中枢。
一度に450人が演じ、本物の馬さえ駆け抜けるほど巨大な舞台。
今はまだ、荘重なドレープを描く幕の向こうで、
静かに開演の時を待っています。
舞台の向かいには、先ほどのホワイエよりも広い1階席。
それを半円形に取り巻き、4層にわたって設けられたボックス席…
遥かなる天蓋、シャガールの円い天井画と
大ぶりな円錐状のシャンデリアのもと、
この殿堂を埋め尽くすのは、赤とゴールドの皇帝色です。
大舞台を覆う幕、舞台を見下ろす客席達、そしてボックス席の内装には、
全て深紅のビロードが使われています。
それらを縁取るように、ボックス席のバルコニーや柱の彫刻、
舞台を囲む額縁状の装飾、
天井画の周りと天井の装飾には、ゴールドの輝きがあしらわれています。
ホワイエで歓談していた貴人達は、この数え切れない客席に、
とっておきのファッションで咲き誇り、
オペラの登場人物を見つめ、その運命にはらはらし、
天才達の歌と音楽に聴き惚れ、終幕には万雷の喝采を贈ったことでしょう。
ああ、ため息の出そうな光景! 想像しただけでも本当に胸がときめきます。
パリの上流社会で、真剣に洗練と高貴の"美"を追い求めたメッシュ・ダム
(貴紳・貴婦人達)。
彼等が社交し、オペラという芸術を楽しんだ場所が、かくも美しいこと。
宮殿でも美術館でもなく、劇場であるオペラ座が、
単に舞台を上演する場にとどまらず、
荘厳さと 鮮やかな華麗さをもって、貴人達の求めた"美しい生活"
その最高のワンシーンを、生き生きとイメージさせてくれること。
このあたりが、 "芸術の都・パリ"の底力を感じさせ、
その魅力に私を酔わせるのです。
感動の余韻にひたりつつオペラ座を出ると、ちょっとお腹が空いて来ましたね。
今回の旅は"食いしん坊旅行"だったかしら?と思うほど、
入る店入る店美味しくって。
私はもしかすると、食べ物には特別なアンテナがあるのかもしれません。
お奨めはオペラ座近くの『Paul』というパン屋さん。(安くて美味しい!)
それからオペラ座からマドレーヌ通りを行ったところ(ちょっと奥です)にある
『Bubbles』というフレンチ・レストラン。
何でも今パリではかなりトレンディなお店とのことです。
味付けのベースが高級料理店のそれとは違う気もするんですが、
新しい感覚がプラスされていて、新鮮な驚きがあります。
古いものの良さがあって、例えばオペラ座のように、それを大切に守る一方で、
どんどん新しいものにも兆戦する。
そのへんも、"さすがはパリ!"です。
さて、夕ごはんにはまだ早いし、ルグラン・ホテル(オペラ座の隣)のカフェで
おやつをしたら、どちらへ行きましょうか?
マドレーヌ通りを行って、カルティエやシャネルを覗きましょうか?
フォションで缶詰を買ってもいいですね(夜食に)。
それとも、オペラ通りを下って、セーヌのせせらぎを聞きにいこうかしら?
少ーしだけ傾いた夏の陽が、ブールヴァール
(並木のある大通り)の風と戯れています。
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